日本語の源流をたどる   今井欣一
作品一覧

第一巻 『縄文・弥生の地名』

地名は、大きくわけて、日常生活に欠かせない市区町村の『大字・小字名』と、おもに交通路として使われる「峠、川、島、岬」などを総称する『自然地名』に分けられます。両者は、使用目的の差異から、命名年代が違っていて、『字名』の方が古いことを各地名群のデータ分析から推理します。

後半は地名の語源解釈です。動植物名や宗教名など、具体的な意味をもつ『峠』を主題に、地名と言葉が主として二音節の四段活用他動詞を『掛け言葉、逆さ言葉』で結んで、地形表現を行なったことを導きだします。ここから、なぜ日本語の動詞が「四段(五段)活用」になったのか、言葉の語尾が子音で終わることのない、「開音節」の構造をとったかの理由が浮上します。
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第二巻 『地名考古学』

この巻は、自然地名の『島、崎、鼻、峠、越』と、これにほぼ対応する字名の『島、崎、花、坂、越』を加え、各地名群の比較対照を行ないます。前半は海岸部の自然地名が山間地名と同じ手法でつけたことを解き、命名年代の概略が、古い順に「島>崎>鼻・越>峠」になることを導きだし、「鼻、越」地名群が弥生時代につけられた史実を推理します。

後半は十種類の地名群の音数比較を行ない、上記の推論を補強すると同時に、この字名の大半が、自然地名群より古い、縄文時代に命名された史実を提起します。字名の『島、崎』地名が表現した地形の意味を基に、時代の推移に従って変わった地形の変遷を対照します。とくに自然の地球温暖化で、海水面が氷河期から130mほど上昇し、ピークの約六千年前からわずかな温度下降で、3~5m海水位が下がった、縄文時代前期~晩期の『縄文海進→海退』現象を中心に据えて、貝塚遺跡の分布状況などを参照して証明しよう、というのが第二巻の主題です。
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第三巻 『倭語の法則』

ここでは、第二巻で検証した十種類の地名群に『神社、郡、市町村、旧国鉄の駅』名を加え、当てた漢字を分析して倭語の構造をさぐります。現代の日本語も同様ですが、倭語は五母音を均等に使いません。縄文時代の命名が想定される字名の「島、崎」地名(総数:約5,000)の語頭母音は、おおよそ「a:44%.i:22%.u:12%.e:3%.o:19%」の比率で使用し、五母音のつなぎ方に独特の法則性が認められます。この極端に偏向したアンバランスは、倭語が自然の音をもとに構成したことが原因にあがります。韻をふむ『倭語の音律』は、自然音をもとに言葉を創作した史実に関係し、日本語が『擬音語、擬態語』を常用するのも、縄文時代からの伝統と考えてよいでしょう。この『倭語の音律』を基本におくと、百済・新羅などの朝鮮系渡来人がもたらした「上代特殊仮名遣い」は、古墳~奈良時代の用法で、縄文時代にはなかった言葉遣いと推理できます。
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第四巻 『温故知新・川名の起源』

前半の『温故知新』の章では、時代の言語活動を反映する地名の特性を利用して、いま新設される地名と高度成長期以前のそれを較べ、なぜ「日本語の乱れ」が発したかの原因を考えます。言葉をふくむ日本文化が、自然との共生によって育まれ、基本精神が単純な上昇志向でなく、可逆進行の『循環』にあったことを検討し、様々な分野の「空洞、根無し草」化現象が、自然からの離脱であったことを解きます。

後半は、『自然地名』のなかで特殊な命名傾向をもつ『川名』の起源探索を行ないます。川名は、流域の最も重要な地名や水源の沢・谷などの名をとった『転用地名』の集合であるところが大切です。その代表例として「利根川、信濃川、北上川、木曽川、淀川、阿賀野川、最上川、阿武隈川、天竜川、雄物川」の起源を分析します。
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第五巻 『地名の解き方』

第一巻から四巻までは、おもに自然地名を中心に地名の解き方、命名年代の推定を行ないました。この巻では、まだ検討していない『山名』と、私たちの生活に密着した『字名』を主題に、「地名の解法」を応用して、いま使っている地名が表現した地形が、どの時代にあったかを様々な地図を利用して探索します。

まず、字名の代表として、駅名をとりあげます。大阪市民の足・JR大阪環状線19駅と桜島線の3駅、東京の環状動脈・山手線29駅と赤羽線3駅に採用された54の地名の意味と歴史をさぐります。古墳時代まで「難波の海」とよばれた入江が陸化した「水の都、橋の街」大阪をはしる平坦な大阪環状線。起伏に富んだ武蔵野台地、「坂の町」東京を縦貫する山手線の差異が、「駅名」に表現されているところが興味を誘います。両線の過半数の駅名が、『縄文~弥生の地名』を採用した史実を浮上させるのが、この巻のテーマです。

山名は、かつて四方からの呼び名が違っていたように、山体へ直接つけた名前と、「字・沢・谷・滝」などから転用した名の識別と、起源地名の比定は地元の方でないと難しいと思います。参考例として「奥多摩の山」、白馬・剱・常念・槍・穂高などの「北アルプスの岳」、「浅間山と富士山」、「阿蘇山」の語源を考えます。
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第六巻 『律令時代の日本』

律令時代の根幹は、公地公民を基本におく「国郡郷」制度と、「租庸調」の税制でした。この中の『郡』が第六巻の主題です。平安時代中期に編纂された『倭名類聚抄(和名抄)』には66国2島の国名、591の郡名、4,000余りの郷名が記録されています。この郷名の比定作業を基に、同時代の『延喜式』にのる神社名と官道の驛家、最近の発掘成果による郡役所の位置の復元、地名が表現した地形などを参照して、武蔵国の21郡と相模国8郡、そして全国郡名の起源地を推定します。つまり、各地方中心地の分布状況から、律令時代の日本地理の再現を行います。さらに『和名抄・延喜式』にのる各国の水田面積と稲束数から、平安中期の各国・各地方の稲作生産効率を算定します。これを畿内七道と偏差値で表現すると、「山陰道:68.5。山陽道:60.5。北陸道:51,9。南海道:50.0。東海道:46,6。畿内:38.9。東山道:35.7」という信じ難い結果がえられます。ここには…ヤマト王権〈乙巳の変(645年)以後:孝徳~天智朝〉の領域は東日本であった…という、古代史の常識をくつがえす情報が隠されているのが興味をさそうところです。(Google 第1位 Yahoo! 第1位)

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第七巻 『国名と県名 東日本』 第八巻 『国名と県名 西日本』

郡名が小地名をとった史実を立証できれば、『国名は小地名の昇格』との仮説を定理にするのは比較的簡単です。これは「駿河国駿河郡駿河郷、出雲国出雲郡出雲郷、大隈国大隈郡大隈郷」などの存在と、奈良時代に新設した国々の大半が、郡名を採用した史実が傍証になります。これをひとつずつ解いてゆくのが、この二巻です。それに加えて明治維新の後、明治4~9年(四国のみ明治21年)に決定した府県名の起源を考えます。公開は平成22年の予定です。


第九巻 『地名資料 字名』

第九巻から十二巻は、第一巻から四巻の本文で利用した、おもに5万分の1地形図から収集して整理した地名群の集計資料です。この巻では、市区町村の字名に使われた「~島、~崎、~鼻、~坂、~越」型の地名群を命名時の古形を推定して、アイウエオ順に整理、集計を行ないました。集計結果は、五つの地名群の平均音数が「4音」、地名が二文字の漢字で記された事実を浮上させます。ここから、ふたつの要素を組み合わせて、唐にならった律令時代の『好字二字化令』が出された理由がわかります。五つの地名群の音数集計では、統計データが左右対称の『正規分布』の形をとるところが特に重要です。このような集計結果は、作為が入らない自然状態で組み上げた大系を表現しています。第二巻『地名考古学』では、字名の「~島、~崎」地名群の過半数が『縄文海進~海退』時に実際の「島、岬」であった可能性を述べました。こうした事実と、本文に記した様々な状況証拠から、五つの地名群は、自然の摂理を理解尊重し、しぜんに融合して生活を営んでいた『縄文時代』の地名と推理できます。わずか五種類の地名群を扱っただけですが、ここに見られる事象は、『字名』全体の傾向を表わすと考えてよいでしょう。

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第十巻 『地名資料 島、岬、峠』

第十巻は、前巻の地名群と同じようにみえる自然地名の「島、崎、鼻、峠、越」を地形図から取り出して、両者の比較対照を行ないました。小範囲を基本につけた字名…縄文地名…と、交通路の要衝に命名された自然地名…主に弥生地名…の差は、利用者の多寡です。村を基本につけた字名は語彙が少なく、同一名が多いために、少し離れた村落に同名がある地名群落を造りやすい性質があります。字名は住所・戸籍に使われる重要な働きがあって、簡単に変更できません。これに対して、交通路の要所である「島、崎、鼻、峠、越」名が、法令で規制されなかった様子は様々な史実に残されています。この同じ名の多い要素が、交易が活性化して自然地名の利用がふえた弥生時代に適合せず、融通性を欠く縄文地名(島、崎、峠の一部には現存)に代えて、自由奔放な弥生地名に取り替えた要因と考えられます。自由奔放といっても、縄文以来の言語創作法を遵守し、利用者の記憶しやすさを特別に配慮して、動植物名など、諸事一般の名を積極的に重ね合わせたところが、弥生地名の特徴です。

第九巻の字名の平均音数が「4音」であるのに対して、自然地名の平均音数は「島:4.58。崎:4.77。鼻:5.69。峠:6.58。越:5.45」音と大きく異なり、『正規分布』を採らないのも特徴のひとつです。この分析結果から、同じ種類にみえる「字名⇔自然地名」は、別種の地名と考えたほうが良さそうです。前記の音数の違いや様々な現象から、古い順に、おおよそ「字>島>崎>鼻・越>峠」の命名順位を推定できます。この根底を流れるのが命名法の厳格な論理であり、現存地名の分析だけで、これほどの史実が浮上するのが『地名研究』の魅力です。各地名につけたローマ字の「推定原型」を詳細に分析すると、『縄文~弥生時代』の言語活動が復元できる可能性を秘めているのは、大いなる楽しみといえます。

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第十一巻 『地名資料 山、川』

二つの地名群は、20万分の1地勢図から資料を作りました。これでも、「山:5539。岳:1201。森:410。峰:246。その他:150」「川:2390」例(北海道、沖縄県を除く)と、個人の研究として、ほぼ限界と感じられる分量になっています。

山名は、山の特徴を表現した名称と、「字、沢、谷、滝」などの名を採った転用地名の混成が考えられます。実例は、第五巻『地名の解き方』山名の起源で、直接名の代表に「阿蘇山」の中央火口丘、転用名の例として「奥多摩の山、浅間山と富士山、北アルプスの岳」をあげました。これらの山々は現地に行って踏査したものです。しかし、全国の山々の調査・分析は、個人の力ではまったく不可能です。この巻には7500余りの「山・岳・森・峰」名の推定古形を提起して、地名の意味が湿地・谷型地形を表現した例が多いことから、山名は、「沢、谷」からの転用名が多い、と推理しました。この辺は、地方ごとに、地元の方々の研究にゆだねるしか方法がなさそうです。

川名の項では、第四巻『温故知新・川名の起源』に集計結果だけをあげた、「川は流域の重要地点の名を採用した」事実の具体例、川名の起源地名をあげました。この重要地点が時代ごとに変化したところが大切で、ここから、川名の大多数が先土器時代から古墳時代に命名された様子が窺われます。

なお、第十二巻『地名資料 神社、市町村名』は、平成21年末に公開予定です。

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